『ガウスの数論世界をゆく』のページ

書評 
1. 加藤和也氏(シカゴ大学教授) 2. 足立恒雄氏(早稲田大学名誉教授) 3. 上野健爾氏(京都大学名誉教授) 4. 竹山美宏氏(筑波大学准教授) 5. 伊藤哲史氏(京都大学准教授) 6. 山崎隆雄氏(東北大学教授) 誤植の訂正

加藤和也氏(シカゴ大学教授)

数学は歴史を振り返ることでその本質が味わえるように
思えます。この本は、整数論を切り開いた大数学者ガウス
が何を考えたかを、現代整数論の重要分野である岩澤理論
の世界第一線の研究者である著者が、しっかりと受け取り、
わかりやすくたどる力作です。
専門家も一般の人も楽しめる良書です。

足立恒雄氏(早稲田大学名誉教授)

栗原将人さんの《ガウスの数論世界をゆく》(数学書房)が
出版された。極めて丁寧にガウスの数論(平方剰余と4次剰余の
相互法則を含む)が書かれている。「私はこの本を片手間
には書きませんでした。研究論文を書くときと同じように
数学する魂をこめたつもりです。数学の発見のおもしろさを
伝えるためには、数学の魂がこもっていなければならないと
思ったからです」と前書きにある通り渾身の力を込めて
書かれた本である。いい加減なことを垂れ流している本か、
そうでなければ、わかってもらわなくて結構という本が多い
中で、本物をわかってもらおうという意欲があふれた良書
である。
[twitter(2017年5月14日)より引用]

上野健爾氏(京都大学名誉教授)

数学書房から、大変ユニークな本が出版された。ガウスの
4 次剰余に関する論文(第 1 部 1828 年、第 2 部 1832 年)
をもとに、ガウスの手法に従って 4 次剰余の相互法則を
証明することを主要な目的とし、さらに 4 次剰余の相互法則
が現代数学とどのように繋がりを持つかを述べた本である。

ガウスが当時の時代の先端をはるかに凌駕していたことは
本書を読めばよく分かる。しかし、一方では群論の言葉も
まだ明確には定義されていなかった時代であった。そのため、
群論の言葉を使えば簡単に記すことができることも、ある程度の
複雑さをもった形でガウスは提示せざるを得なかった。
ガウスは群論の用語は使わなかったにせよ、実質的に群論を
使っている。本書ではガウスの考え方にしたがって理論を丁寧に
述べ、かつガウスが論文に記さなかった 4 次剰余の相互法則の
証明を与えている。

本書の中心となるものは素数 p と 1 の p 乗根を使って定義される
ガウス周期である。

(中略)

しかし、著者は意図的に廻り道をして、山頂に上る途中の景色を示し、
新しい概念が必要となる理由を読者が納得できるようにしている。
山頂からみれば近道を見つけることは容易であるが、最初の登山者は
道を見つけながら進まなければならない。そのことを本書は実際に
読者に味わわせてくれる。

(中略)

ところで、本書はだれよりも数学に興味を持った高校生に勧めたい。
本書を丁寧に読んでいけば、数学を研究することがどのようなことか
を想像することができるであろう。また、本書を読むことによって
生じたさまざまな疑問が現代の数学と深く結びついていることも
次第に理解することができるようになる。本書を一人で読むことは
難しいかもしれないが、仲間で一緒に例を計算しながら輪読すれば
理解が深まることは間違いない。また、まわりによい指導者を見つ
けることができれば幸運を喜ぶべきである。「千里の馬は常に有れ
ども伯楽は常には有らず」だからである。

そして出版社と書店には本書が高校生の目に触れるように工夫される
ことを切に希望する。

[「数学文化」第28号(2017年8月30日発売)より抜粋]

竹山美宏氏(筑波大学准教授)

1つの理論にじっくりと取り組みたい方には、最近出版
された栗原将人「ガウスの数論世界をゆく」をお勧め
する。この本は、19世紀初頭の大数学者ガウスによる
「ガウス周期」の研究の道筋を、高校の数学程度の
知識で読めるように解説したものだ。ガウス周期は
三角関数の値の数論的な組み合わせで表される複素数
で、その具体的な計算をひとつひとつ積み重ねて定理
を証明していく過程がとても楽しい本である。

[「日経サイエンス」2017年12月号]

伊藤哲史氏(京都大学准教授)

素数の法則の探求は、数学において最も基本的でありながら、
今日も未解決の謎に満ちた研究テーマです。本書は、ガウスの
創始した素数の法則--「円周等分の理論」と「相互法則」--の
現代的な解説書です。

(中略)

第 1 章・第 2 章は本章の導入部分で、いわば「前菜」に
あたります。第 1 章では正 n 角形の作図問題が復習され、
第 2 章では有限体の基礎が扱われます。
第 3 章からが本題で、本書の主役であるガウス周期が導入
されます。ここは(栄養価の高い)「スープ」でしょうか。

第 4 章は「主菜(魚料理)」とでもいうべき内容で、
2 次ガウス周期が扱われます。

(中略)

いよいよ第 5 章では 4 次ガウス周期が扱われます。ここは
「主菜(肉料理)」ですから、心して進みましょう。

(中略)

最後の第 6 章では現代の数学との繋がりが解説されてい
ます。ここは「デザート」ですから気楽に進みましょう。

(中略)

歴史的な注釈や他書へのコメントも随所に書かれており、
著者の見識の高さを存分に感じることができます。
予備知識が少なくなるよう配慮されているので、意欲と
根気さえあれば高校生でも読み進めることができる
でしょう。このような形でガウスの理論を学ぶことが
できる書籍は他に例を見ないものです。ぜひ、多くの
方に手にとっていただきたいと思います。

[雑誌「数理科学」2018年8月号]

山崎隆雄氏(東北大学教授)

 飛行機に乗ると富士山が見えることがある.その姿は実に美しい.歩いて頂上まで
登ってもその姿は見ることができないし,その山容や地形を正確に把握することも
難しい.しかし当然ながら,飛行機から見るよりも歩いて登る方がずっと心に残る
体験である.

 本書の目指すところをたとえていうと,ガウスの開拓した数論という山を,
飛行機から見下ろすのではなく,自分の足で歩いて登ってみるということにある.
ガウスから二百年,数論は爆発的に発展したし,著者はその発展を知り尽くした
第一線の研究者であるから,現代的な高い視点を活かして名所を効率よく案内する
こともできたであろう.しかし,本書ではその対極にある道を選んだ.ガウスが
未踏の世界を開拓せんと悪戦苦闘していたときの,その悪戦苦闘ぶりを追体験する
ことが本書の主眼であると言ってもよい.予備知識がほとんど不要という意味では高
校生でも読めるのだが,議論と計算をたどるには熱い意欲と分厚い計算用紙が必要
である.定理を効率よく習得する以上のものが,そこにはある.

 本書の主題はガウス周期である....... 全文

[「数学通信」第23巻 3号 (2018年11月)]

誤植の訂正

vi ページ下から9行目:第 4 章 → 第 5 章
27 ページ下から5行目:定数のずれ → 定数倍のずれ
84 ページ7行目: 0,1,...,m-1 → 0,1,...,ℓ-1
189 ページ下から3行目:ピタゴラス音階 → 純正律
200 ページ 1 行目:ℓ ≡ 5 (mod 8) → p ≡ 5 (mod 8)
(以上は第2刷りにて修正済)

iii ページ脚注 2: arithmeticae は arithmetica の属格 → arithmeticae は arithmeticus の女性・複数形 ()
28 ページ下から2行目:F_5, F_7  →  F_5^{×}, F_7^{×}
51 ページ下から8行目:定理3.1.1の証明 → 定理3.3.1の証明
83 ページ下から7行目:証明終わりの記号は必要ない
88 ページ定理4.7.1の後:「証明」という言葉とこのページの証明終わりの記号は必要ない
(証明はこのページではなく、89ページにある)
96 ページ下から1行目:alpha in Z[i] に対して → 複素数 alpha に対して
98 ページ下から2行目:証明終わりの記号を加える(ここで定理 5.2.1 の証明は終わり)
108 ページ3行目:(5.18) と (5.19) より → (5.19) より
120 ページ4行目:追及 → 追求
139 ページ下から8行目:p-a(sqrt{p})_{ell} ≡ 1-3 ≡ -2 (mod 6) に注意すると、D_{3} ≡ -1 ≡ 2 (mod 3) である。
156 ページ下から6行目:上の記号が整数 n が → この記号は整数が
192 ページ6行目:R  →  R^{×}
200 ページ6行目:F_{ell} に入らず → (F_{ell}^{×})^2 に入らず

以上は第3刷りにて修正しました

また、第3刷りではガウスの銅像の写真を鮮明なものに入れかえました
38 ページ10行目:m は正の整数 → m は負でない整数


私の本で何度も引用したガウスの1828年の論文の第22節は、
「注意深い読者(lectores attenti)」(v ページ参照)という言葉が
出てくる大変重要な節であるが、

     In Disquisitionibus Arithmeticis theoriam generalem divisionis circuli,...
       (「数論研究」において、円の分割の一般理論を...)

という文章で始まる。
奪格支配の In の後に、奪格の Disquisitionibus と Arithmeticis が続く。
もし、Disquisitiones Arithmeticae の Arithmeticae が名詞 Arithmetica の
属格だと仮定すると、上の文章でも属格のままなはずで、
それが Arithmeticis という奪格になっているところを見ると、
Disquisitiones Arithmeticae の Arithmeticae は名詞 Arithmetica の
属格ではない。これは形容詞 Arithmeticus の女性・複数形・主格なのである。